ぴりりと映画紀行

基本マイルド、たまにぴりりと映画についてあれこれ書きます

【おすゝ名画】早春

みなさん、大変ご無沙汰しております…m(__)m

特に何があった訳でもないんですが、しばらく休憩っ!と思っていたら、

うっかり半年も開いてしまいました(-_-;)

最初の記事を読み返したら

「少しでも多くの方に読んで頂けるような素敵なブログにしたいと意気込んでいるので

これからよろしくお願いします!!」

なんて書いていて、あやうくひっくり返るところでした(@_@)

穴が無くても掘って入りたい気分でございます。

 

これからは心を新たに、せめて月1ペースで!(まったりペースですが)

更新してゆけたらと思っております。

どうぞよろしくお願いします…!!!

 

ということで、前置きが長くなってしまいましたが、今回心新たにご紹介するのは…

 

「早春」1957年 144分 モノクロ 監督:小津安二郎

  出演者 淡島千景 池部良 岸惠子 他

作品について

小津安二郎監督は日本の映画黄金期を支えた名監督として名高いですが、彼の作品には

「穏やかでモダンな家庭」を舞台にしているものが多いイメージがあります。

しかし!しかし!この「早春」、テーマはなんと……

 

不倫哀愁」!!!

「ケッ心新たに紹介するのが不倫の話かよ」

「先が思いやられるぜ、まったく…」

そう思われた方、このブログはすっ飛ばして是非見てみてください、この作品を!

 

不倫をテーマにした作品はありふれていますが、小津監督の作品群の中では

かなり異色のテーマであり、

さらに今見ても新鮮な不倫の描き方をしているんです!!

 

登場人物

:杉山昌子(淡島千景

基本的には夫に尽くすし、ある程度我慢もする。さばさばした性格。

「なんでこんなところに紅ついてんの?」

こ、こわいッ!真面目にギクリ!としました。。。

でもね、ツンツンツンツンデレってかんじで可愛いところもあるんです!

:杉山正二(池部良

サラリーマン。いざとなるとはっきりものを言えない。

ある意味日本人的な性格なのかもしれないなあと思ったり。

池部さん、「昭和残侠伝」で健さんと2人して渋かっこいい漢!を演じてたのに、

ここでは全く情けないただのおっさんです。

愛人:金子千代(岸惠子

杉山の仕事仲間。「キンギョ」と呼ばれている。コミュ力高い系女子。

「奥さん憎らしくなってきちゃった。ウフフ、妬いてんのかな」

憎らしくなってきちゃったって…どっちのセリフだよ(# ゚Д゚)

でも、可愛いです、正直。

悪女っていうより小悪魔みたいな、そんな感じです。

 

この3人が主要人物です!

心に残った女性二人のセリフを本編より抜粋してみましたが、

やっぱり穏やかさのない設定ですねぇ…

 

ここがおすゝめ

おすゝめ No.01

これが小津調だ!絶対ぶれない強固なカラー!

見終わってから振り返ると意外にも、テーマはハードでもやっぱり小津作品だなあ

という感じが残ります。小津監督の作品はカメラワークが特徴的ですが、

それだけでなく、やはり作品を通した雰囲気が「小津調」なんですね。

では映画における雰囲気とはなにか。

私なりに考えてみたところ、監督のこだわりの集積

という表現が一番しっくりきました。

いうまでもなく、監督はその作品の最高責任者なので、基本的には監督がこうしよう

と言ったらその意思が反映されるものです。(そうじゃない例も多々あるようですが)

特に小津さんは脚本も書いているし、撮る前に頭の中で全てのシーンが出来上がって

いたのだそう。だからそれにそぐわない演技をすると何度でもやり直しをさせられた

とか。周りはものすごーく大変だったとは思いますが、それだけ作品に対する

こだわりが強かったということもできます。

そしてその、こだわりというのは人それぞれですから、それが集まると

「その人にしかない作品」つまりその人の「調」になるというわけです。

そう考えると、こだわりの強さはその人らしさの強さとほとんど同じことに

なりますから、小津調というのはやはり他のどの監督にも出せない「調」なんですね。

「早春」のテーマが他の作品と比べると異色であることは確かですが、

逆に異色のテーマを扱った作品で自分の持ち味を発揮することで既に確立された

「小津調」の強固さを世に知らしめる結果となったように思えます。

 

おすゝめ No.02 素晴らしい哉!三角関係!

三角関係そのものが素晴らしいと言いたいんじゃありませんよっ!

三角関係の描き方がとってもリアルで素晴らしい!

世に溢れる恋愛関係のもつれ話って、結構な確率で誰か死にますよね(笑)

いや、笑えませんが。

死なないにしろ誰かがひっどい目に遭う場合がほとんどです。

そんな展開の作品を観た後は「あちゃー」となります。

でも考えてみたら難しいんですよね、確かに。

それまでドロドロの関係を描いておいて、皆仲良くなりました、はいハッピーエンド!

となるのは違和感しかない。

オチで誰かが犠牲になるほうがまとまりがいいし!クライマックスになるし!

浮気すんなよというささやかな教訓にもなる!メリット多い!よし、決まりっ!

そうしてまた一つ、量産型昼ドラ系ドロドロ三角関係話が誕生するのであった…

というのは根も葉もないただの推測ですが('ω')

脚本家だって人間です。そんな風にして生まれた話も結構あるんでないの?

と睨んでます、私は(ー_ー)!!

もちろん、そういったドロドロした恋愛モノが悪いとは思いません。

ただ、個人的には(これは恋愛モノに限らずですが)型にはまり過ぎなもの、

何も新しさを感じられないものを見ても楽しめないというのがあって。これってまだま

だ若造だからかなとも思うんですが、とにかく何か新鮮さを求めてしまうんですよね。

そんな個人的な趣味嗜好のせいもあり、「早春」は凄いぞと。

 

少々前置きが長くなりましたが。で、ですね。

「早春」の三角関係の素晴らしいところはといいますと、

ドロドロしてない!

 

これにつきます。

つまりとことん量産型昼ドラ系ドロドロ三角関係話の型にはまっていないのです!

では、この3つの項目に関して、ネタバレしない程度に解説してゆきまーす!

 

ドロドロしていない!ということ

ドロドロしていないことについて考える前に、ドロドロしているって何ぞや?

というところから出発しなければなりませんね!ドロドロとはこう!みたいなものが

定義されてるわけじゃないので、あくまで個人の主観でしかないですが……

私が恋愛絡みの話でドロドロしてるなあと感じるのは、

①複数の関係がどんどん発展していく話②怨恨にフォーカスされている話です。

 

例えば、太郎と花子という夫婦がいたとします。

そして太郎は夏子さんと浮気をしているとしましょう。

 

①の場合

花子は太郎の胸ポケットから見覚えのないハンカチを発見、夏子のものだと確信する。

花子は夏子の夫・夏夫(超絶イケメン)に近づき、ハンカチを見せながら

夏子と太郎の浮気を夏夫にチクる。すると夏夫は青ざめた顔。

「これは俺が初恋の相手、秋子に渡したハンカチじゃないか!」

頭を抱える夏夫に、そっと寄り添う花子。見つめ合う二人…ダバダバ

 

②の場合

実は花子さんと夏子さんは中学時代の親友だった。しかし夏子は花子に片思いの彼を

奪われてしまうという苦い思い出があった。今回の太郎との浮気は太郎が好き

というよりも花子への仕返しのつもりで始めたものだったのだ。そのことに気が付いた

花子はプライドを汚されたことに立腹。夏子の浮気を夏子の夫・夏夫に話す。

夏夫は怒り、夏子と離婚する。

身寄りがなくなった夏子は、浮気相手の太郎に同棲したいと言うが、

自分には気持ちがないことを知った太郎は夏子を突っぱねる。

夏子は、太郎・花子の家に上り込み、太郎を射殺して、自分もピストル自殺。

夏子は死に際、花子に言うのであった。

「全部、ぜぇーんぶ、あなたのせいだから。死んだら呪ってあげる」←怖い…

 

と、私が思うドロドロ話を2パターン挙げました笑!ここまで酷い話って

あんまりないですが(-_-)/~~~でも、ドロドロしているなあと思う作品って、

大体このどちらかの要素が入っている気がするのです。

 

不倫モノでドロドロしていない作品もこの他に何作か見たことはありますが、

それって不倫する2人が中心に描かれていたり、あるいは仕方ない理由があったり

して、不倫モノというより純愛の結果が不倫になっちゃった(^_^;)

というのがほとんどではないでしょうか。

 

「早春」は主人公を不倫される側=妻に設定しながら、そして不倫を純愛としてでは

なく不倫として描きながらも、サバサバと進んでゆく後味のよい展開となっています。

 

おすゝめ No.03 冷めかけた夫婦の哀愁

この作品のもう一つのテーマ、夫婦の哀愁。

おそらくこれが、杉山・夫(池部さん)が不倫をしてしまった原因のひとつであり、

そう思うから観客も夫と金魚に批判的になり過ぎず、多少同情して見れるのかなと

思います。

ではここで描かれている哀愁とは何か。

それはある種の厭世観がベースになっていると思うのです。

厭世観というと、なんだか物騒なことが起こりそうな予感がしますが、

誰も自殺なんてしませんのでご安心を。

ここで描かれる夫の哀愁は「会社勤めってのもラクじゃねえなあ」対する妻の哀愁は

「家庭を持つってのもムズカシイわね」。

 朝早く起きて、満員電車でもみくちゃになりながら通勤し、会社にたどり着けば

仕事をもくもくとこなし、仕事が終わると飲みに行ったり行かなかったり。

あんまり遅く帰ってばかりだと浮気を心配されるけど、早く帰ってばかりだと

それはそれで奥さんたちも休まらない。

昔ですから、一度就職したら基本的にそこの会社に定年まで勤めるのが

スタンダードでしょう。定年までよく勤めていざ楽しい老後を。と思ったら

あっという間に天国へ。

妻は夫より前に起きていろいろ世話してやり、夫を送り出すと家事、近所づきあい。

そうこうするうちにあれ、もう夕飯の時間だわ!で急いで準備したのに

夫はなかなか帰ってこない。ようやく帰った夫は「飯?今日はいらないね」。

双方とも、これじゃあ日々の暮らしが常にストレスですよね。

杉山・夫の不倫は代わり映えのしない毎日に少々退屈し、刺激を求めた結果だった

のかもしれません。

 

で、ですね。これの何がおすすめなのかと言いますと。

心にずしんと圧し掛かるような描かれ方ではないところです。

淡々として突き詰めすぎない描写なのに、鑑賞後なぜか心に残る哀愁。

これが小津作品の味と言いますか、名物と言いますか、醍醐味と言いますか。

あんまりうまい言葉が見つからないんですが、そんなものなんじゃないかと。

東京物語」「秋刀魚の味」などを見て、最後に残るちょっぴり寂しい気持ち。

この作品も例に漏れず、そんな気分になりました。

白黒とか古い邦画とか、あんま興味ないし…というあなた、他の小津作品で

うっかり寝てしまったあなた、そして新しい不倫モノが気になっちゃうあなた!

是非、見てみてください!!

 

結局何が言いたいの?

 毎度のことになりそうですが、いろいろ書いたらものすごいボリュームになって

しまいました…最後に書いても意味ないかもしれませんが面倒になったらどうぞ

読み飛ばしてください…

ということで!お待たせしました。結局何が言いたいの?はい。「早春」という作品は

異色と見せかけて

  実は小津調ど真ん中!

       ネオ不倫モノの作品なのであるっ!!